既存不適格建築物とは

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これは、建築基準法は頻繁に改正されるので,その時は法を守っていても法が代わり、既存の建物は違法建築となってしまいますので、救いのための法文第3条2項です。以下に引用します。

建築基準法第3条2項「既存不適格」の定義と「建築基準法を適用しない。」

この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に建築、修繕若 しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地がこれらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物 の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない。

「既存不適格」という言葉は,改正された条文上は適合していないのですから,「違法」となるべきところを第3条第2項で適用除外とされていますから「法改正時点で既存建築物であったために,違法とはならないが条文上は適合していない」という意味です。

実は既存不適格建築物に関する規定は平成17年の6月の改正まで、この法第3条2項の条文しか存在せず、どのような範囲について、どのように適用するのかは、特定行政庁の運用指針に任せていた様です。
そこで、17年の法改正時に運用指針を明確化する目的で、法第86条の7が制定されます。

法第86条の7各項により一定の条件内の増築においては既存不適格が継続します。既存不適格を継続して増築できる場合と遡及適用される場合の扱いについては「建築士の必要知識」〈増築における既存不適格の継続と遡及適用〉を見てください。
と言っても、建築士でもないのに、読むにつらい法文です。そこで、単純化して示します。

昭和26年制定以降の法改正を示し、「既存不適格」の概略をのべる。

昭和26年  1951   建築基準法ができる。    
これ以前の建物の増築の可否は、既存遡及の考えでは説明できない。                           これ以前は「市街地建築物法」というのがあった。

昭和45年  1970   第5次改正         
用途地域による建物制限、容積率・建ペイ率・斜線制限、防火区画・避難設備・排煙設備・非常照明・採光・換気・内装制限などなど、今に至る法の骨格がここで作られた。これ以前の建物を既存遡及するということは、一から設計するより手間のかかる調査・設計・役所うち合わせがいる。

昭和46年  1971   RC造の帯筋の増加

昭和51年  1976   日影規制          
この既存不適格は「建築審査会」にて、救われる手がある。

昭和56年  1981   新耐震 基準        
構造の規定、法20条は概念的なもの。具体的中身は告示で示される。                            H17年の「耐震診断」による既存遡及の緩和とあわせて重要な基準時。

平成09年  1997   地域地区の変更       
8から12に細分化された。5年ごとの見直しがある。

平成10年  1998   第9次改正         
阪神大震災を踏まえて、構造の告示が出た。告示は継続的にでていて、構造による既存不適格は、構造設計者でもすぐに答えられない。

平成12年  2000   階段に手すりをつける。
階段有効幅は、手すりをないものとして算定。
              Elv.扉の遮煙性能。 
準耐火建築竪穴区画ならば、扉の前にシャッターとくぐり戸をつける改修。
              木造住宅の<耐震基準>
木造住宅の「使用規定」の全体が見直され、接合部の金物補強、耐力壁の配置等が規定された。

平成12年  2002   避難安全検証法       
性能設計により、法で一律決められた規定を変更できることに。これを採用した建物に増築するにあたっては、既存を含めた避難計算の検証をする。

平成14年  2002   シックハウス対策

平成15年  2003   アスベストの禁止

平成17年  2005   構造上既存不適格建築物に増築する場合の緩和の明文化。「耐震診断」が確認申請手続きに取り込まれた。

平成17年  2005   シャッター安全性の向上   
防火区画のシャッターが感知器連動で降り、小学生が死亡。

平成19年  2007   耐震壁の規定の改正     
RC造で壁の多い、アパート・学校・病院の多くは「新耐震」であっても既存の耐震壁をこの規定で見直すと、既存不適格になる可能性が高い。                   

              冷間成形角型鋼管  
平成8年以前の大型鉄骨造の建物で、柱に角型鋼管(STKR鋼)を用いた建物は既存不適格になる。

平成19年  2007   構造の「適合判定制度」   
増築の場合、既存不適格かどうかの調書を出す。
既存が不適格なら適合判定にまわらない事に、今はなっている。これは、おかしいので変るか?

平成21年  2009   既存不適確の緩和      
増築工事が姉歯事件(2005)にともなう上記改正もあり極端に減り、「耐震診断・工事」が「昭和56年以降の確認取得証明」と置き換わった。

昭和56年からの「新耐震」は。1995年の阪神淡路大震災、5000人の圧死で有名となり、姉歯事件(2005)が起きて、新築建物が壊されたこともありましたので、50代以降の方は覚えていましょう。役人である「建築主事」が確認申請業務を行わなくなって20年近くたち、役人が知らない時代になっていますので、このような書面が説明に要ります。

地震のたびに、強められる「耐震設計基準」

1995年の阪神大震災、2011年の東日本大震災と、地震のあるたびに、日本の豊か度に合わせ「耐震設計」のレベルがあがり「既存遡及」も求めるようになりました。名古屋城天守も、愛知県の「耐震改修をせよ。」のリストの一番にありました。

1階は店舗で壁が少ないよう
1階の壁が少ない。地下階があったので、地下壁はあるのだが。
杭の跡が基礎についていて、杭と基礎が一体化していない事が明確
杭の跡が基礎についていて、杭と基礎が一体化していない事が明確

2024年元旦の能登地震で1971年竣工地下1階地上7階のコンクリート造の建物がひっくり返りましたが、阪神大震災でも、杭と建物をつなぐ基礎が弱く、「杭頭の設計基準」が代わりました。しかし、これは「既存遡及」できないので、能登のこのビルは杭が建物からはがれたのでした。
そんな力がどうして起きたかというと、地盤が砂地であり液状化を起こしてしまい、地震波のパワーと違うメカニズムで地階がこわれて倒れました。これは、新潟地震での液状化による転倒と同じですが、2011年東日本大震災でも浦安の埋め立て地が液状化を起こしているので、対応ができていません。砂地は地耐力を表すN値では固いのですが、それが地下水の中にあると、液状化を起こしますので、地下水の水位の把握が重要となります。                     

1970年防火区画・避難設備・排煙設備が、既存遡及される。

設計する立場からすると、「壊して作り直したい。」ほどの、大改修となります。
内部の吹き抜けに二重らせん階段がありますが、避難区画されていません。1959年竣工当初より、外部階段があり、それで1階以下は二方向避難をはたしていましたが、2階以上は二方向避難でありません。
火事での死亡は煙ですので、避難経路に煙が来ないように排煙設備が要り、エレベーターの竪穴区画には、排煙性能を持たせないといけません。
壁が要りますが、耐震補強でも壁が要ります。外壁は帳壁であり耐震には効きませんので、平面プランに新たな壁が立ち、使いにくいプランになります。

1931年竣工の大坂城天守は1997年に耐震改修と共に、「既存遡及」をしています。以下のフェイスブックのアルバムにあります。大阪城天守閣を訪ねて、名古屋城天守を考える。20160513FB記

改修された大阪城を先において、次に名古屋城の現状を示し、既存遡及内容を示します

大坂城天守閣 8階、最上階です。真ん中には名古屋城とおなじ一つの穴に、上りと下りの階段があります。階段の擬宝珠と手すりは昭和のテラゾーですね。土産物屋は、ミュージアムショプと小粋な名前に変え、向こうに見えます。
左手前の白い壁は身障者用のエレベータです。 面積が狭いので、7階・8階と同じ防火区画なのでしょう、竪穴区画のシャッター、防火戸はありません。

6階はバッファーとされ階段しかないので、そこで二方向避難を免れているのでしょうか。 床がコンクリートであり、耐火構造で層間区画ができているからであり、木造の床の天守ではできません。
木製階段は使われておらず、中央の階段室はしっかり区画されてます。

中央正面がコンクリートの柱ですが、耐震補強でカーボンクロスを巻き、木パネルでおおわれていて、大きすぎて柱とは見えません。
天井にはスプリンクラー、監視カメラ、非常口の指示照明があり、結構にぎやかですが、照明を間接としていることで、上品にまとまっています。
5階となると、床面積も増えるので、2方向避難のための竪穴区画された階段が平面プラン周囲に用意されていました。
エレベータシャフトの周りに、耐震壁を兼ねた防火区画の壁を追加しています。

5階の上の6階は、写真で見るように回廊だけ回して、客への床はなく、5階から7階に登ります。6階を使うのは避難階段からできなかったのでしょう。5階の展示の後ろボリュームから、耐震壁によって使えない部分が大きいことが分かります。

床も天井も燃えない木製となっており、高級感があります。

現存名古屋城天守の最上階。外を眺めるために、窓にはガラスがはめ込まれ、国宝名古屋城の倍にしてあります。大きな開口部は、城らしくありませんが、外周をオープンな回廊が回っており、直接外気に触れられます。しかも車いすで回れるように、内部の床高さと同じです。木造では雨漏りしてしまいますが、そこはコンクリート天守ならではのところです。

現状名古屋城天守の内部エレベーター。まだ、エレベーターが珍しかった時代でしたので、石張りで豪華豪華にしたのですが、耐震改修では、木目パネルで包み、あっさり目のデザインが良いでしょう。
姫路城は400年前からあるのでエレベータをつけよとは言われませんが、大阪城天守閣では「なんで、5階から8階までは階段で昇るの?エレベータがあるのに。」と、文句しきりでした。

既存遡及の内容を決めるには、「基準時」という考えがあり、面倒です。

「とても、理解できない。」と言われる方ばかりだと思いますが、今の法的な既存遡及の拘束は「同一棟の増築」にしかかりません。<同一敷地内で、増築に金をかけるなら、既存の建物の「既存不適格」を直しなさい。>の発想です。よく、「既存と別棟増築を渡り廊下でつなぐ場合の渡り廊下の仕様は?」とあるのは、渡り廊下によって別棟でなく、同一棟となり、既存遡及を受けるからです。

平成17年の法律により、構造体の既存遡及の緩和がはっきり打ち出されたので、建築の既存遡及も、きちんと確認申請時に指導、チェックされるようになってきました。以前は、既存分をハッチで塗りつぶし、「増築部と既存部とはExp.Jで構造体は切られており、既存は00年(昭和45年以降)に、確認取得し検査済証もこのようにいただいています。」で、既存の内容を役所がチェックするのはまれでしたが、今は詳しく場合分けがされています。これは、物件ごとに具体的でないとわからないと思います。


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